原因
パーキンソン病とは、脳の中でドパミン(ホルモン)が不足して、手足が動かしにくくなる病気です。
中脳の黒質(こくしつ)という部分でドパミンを作っている神経細胞が次第に減少し、ドパミンが不足してきます。
ドパミンは脳において体の動きをスムーズにする調整役なので、ドパミンが不足すると動きが遅くなったり筋肉が緊張してこわばったりします。
また、他の中枢神経や自律神経もダメージを受けることから、手足のふるえなどの代表的な症状に加え、精神症状や自律神経の障害があらわれることがあります。
頻度
パーキンソン病は、アルツハイマー病に次いで2番目に多い神経変性疾患です。
高齢で発症することが多く、60歳以上に限ると100人に1人がかかるといわれており、全体でも1000人に1~1.5人がかかると推定され、国内におよそ15万人の患者さんがいるとされています。
糖尿病が1000人に4人、虚血性心疾患が1000人に1人、悪性新生物(癌)が1000人に0.8人かかると言われていることと比較しても決してまれな病気ではありません。
症状
初期症状で多いのは「手足のふるえ」です。
力を抜いてじっとしている時に片方の手または足が1秒間に4~6回程度、小刻みにふるえるのが特徴です。手足を動かすとふるえはなくなったりします。また、指をこすり合わせるようにふるえる場合もあります。
それ以外には、動作全体が遅くなったり、細かい動作が下手になったりします。字を書いていると、次第に字が小さくなってくる場合もあります。歩幅が小さい、片足が前に出しにくい、もしくは足をひきずるなど歩行の障害で気付かれる場合もあります。
最近の研究では、においに鈍感になる、長期間の便秘などが発病の前にしばしば認められることがあることがわかってきました。
代表的な症状(運動症状)
- ■安静時振戦(あんせいじしんせん)
- 何もしないでじっとしている時にふるえます。片方の手や足から始まることが多く、進行すると反対側にも広がっていきます。口唇、顎がふるえる場合もあります。
- ■無動(むどう)
- 動作が遅くなります。動作そのものも小さくなります。歩き始めに足が前にでない、字を書いているとだんだん字が小さくなっていく、話し方に抑揚がなくなり声も小さくなる、表情が乏しくなるなどといった症状もあります。
- ■筋強剛(きんきょうごう)
- 筋肉がこわばります。歩行時に腕の振りが小さくなります。ときに痛みを伴う場合があります。腹筋や背筋などに起こることで姿勢が悪くなることがあります。
- ■姿勢反射障害
- バランスを崩しやすく転倒しやすくなります。病初期はあまり出ませんが、症状が進行すると出てきます。急に姿勢を崩したときに立て直すことができず転倒します。
その他にも歩行障害(小刻み歩行、すくみ足)や姿勢異常(座っていてもだんだん傾いていく)といった症状もあります。
その他の症状(非運動症状)
- ■便秘
- 多くのパーキンソン病患者さんが悩んでいる症状です。パーキンソン病自体でも便秘がちになりますが、運動不足、水分不足、薬剤の影響などたくさんの理由でも便秘になることから、パーキンソン病の患者さんは頑固な便秘の方が多いです。
手足がふるえる10年以上前から便秘で、実はその便秘がパーキンソン病の先行症状だったということもあります。
- ■排尿障害
- トイレが近い、夜中に何度もトイレに起きる、急に尿をしたくなりトイレまで我慢できず漏らしてしまうといった過活動膀胱の方が多いのですが、高齢男性の場合は前立腺肥大の場合(もしくは合併)もあり、泌尿器科の先生との連携が欠かせません。
- ■立ちくらみ(起立性低血圧)
- パーキンソン病の症状の一つとして出てくる場合もありますが、薬の影響で起こることもあります。
- ■睡眠障害
- 日中の眠気や夜間の不眠、床に就くと足がムズムズしてくる(ムズムズ脚症候群)、睡眠中のいびき(睡眠時無呼吸症候群)、寝言(大声)や眠りながら歩き回ったり飲食をする(レム睡眠行動障害)などがあります。
- ■抑うつ
- 意欲がなくなったり、無気力になったりします。
その他にもいろいろな症状があります。
診断
【診察の流れ】 問診 → 神経学的診察 → 画像検査 → 薬(L-dopa)による症状改善の有無
まず問診を行い、どういった症状がいつからあるのか、またその症状はどのように経過しているのかなど話を詳しく聞きます。それから神経学的診察(検査)を行い、パーキンソン病に特徴的な症状があるのかを調べます。
ここまでの診察でパーキンソン病が疑われる場合はMRIやSPECT検査などを行い、パーキンソン病に似た症状を示す病気がないかを確認します。血液検査などを行う場合もあります。また、L-ドパなど実際のパーキンソン病治療薬を投与して、その効果を確認します。
最終的にそれらを総合して、診断を行います。
典型的ではない場合には、診断を確定するために一定期間経過観察を要する場合もあります。パーキンソン病も一部で遺伝するタイプがみられますが(家族性パーキンソン病)、パーキンソン病全体の5%程度と言われています。
治療
パーキンソン病の治療法には薬物療法、手術療法、リハビリテーションなどがありますが、残念ながら現時点ではパーキンソン病に対する根本的治療法はありません。いずれの治療法も症状を軽くして、日常生活を過ごしやすくすることを目指すものです。
薬物療法や手術療法はリハビリテーションと併用することで健康的な状態を長く保つことができます。
その他の症状に対しては、各症状を和らげるような薬を投与していきます。
薬物療法
パーキンソン病の治療の中心となる治療法です。中でも不足したドパミンを補う薬物療法が中心です。
ドパミンは直接服用しても脳の中には届かないことから、脳の中まで届いてからドパミンに変化する物質(前駆物質)の L-ドパを治療薬として服用します。
その他にドパミン受容体刺激薬、モノアミン酸化酵素(MAO-B)阻害薬、カテコール-O-メチルトランスフェラーゼ(COMT)阻害薬、アデノシンA2A受容体拮抗薬などといった内服薬があり、貼付剤(貼り薬)もあります。
症状によってこれらを組み合わせて治療を行います。
リハビリテーション
パーキンソン病は病気が進行すると身体が動かしづらくなります。だからと言ってじっとしていると筋肉のこわばりが強くなり、さらに体を動かすことが困難になる悪循環に陥ってしまいます。リハビリは身体機能の衰えを防ぎ、動作や運動能力の改善に役立つだけでなく、転倒などの予防や自立した日常生活の維持に大切です。
また、リハビリは早期から積極的に行うことで生活に支障のない状態を長く保つことができ、薬の使用量も抑えられることがわかってきています。
リハビリは心身の機能維持・向上にも効果的で、認知機能の低下、気分の落ちこみなどの改善につながる可能性があります。リハビリには理学療法(※1)、作業療法(※2)がありますが、それぞれの患者さんの状況に合わせてリハビリ内容を組み立てていきます。また、リハビリは積極性・主体性が大切です。
※1:理学療法 … 立ち上がる、起き上がる、歩く、寝返りをうつなど、基本となる動作を訓練するリハビリ
※2:作業療法 … 食事をする、顔を洗う、料理をする、字を書くなど日常生活をスムーズに送るための動作を訓練するリハビリ
経過
パーキンソン病に対する世間の認知度が上がってきたことから、症状が出現してからパーキンソン病と診断されるまでの期間が短くなってきています。
その分、より早期から専門医による治療が受けられるようになり、毎年のように新しい治療薬も開発されていることからパーキンソン病の患者さんの平均寿命は日本人の平均寿命とあまり変わらないところまで来ました。
治療を開始して3~5年は薬に対する反応性も良く、L-ドパをはじめとするパーキンソン病薬を服用すれば、ほぼ1日中症状は良くなります。この期間をハネムーン期といいます。
5年を過ぎて病気が進行してくるとウェアリングオフ現象やジスキネジアといわれる症状が出てくるようになります。
これらの症状を運動合併症と言い、運動合併症が現れるようになって以降を進行期といいます。
進行期になると薬の調節が徐々に難しくなってきます。そのため、内服薬、貼付剤だけでなくデバイス補助療法が必要となってくることもあります。